「縫合糸肉芽腫」の症例

実際、当院で治療させて頂いた「縫合糸肉芽腫」の症例をご紹介いたします。


「食欲低下と嘔吐」でかかりつけの動物病院に通院していたが、改善しないということで当院に来院されました避妊手術済みのミニチュアダックスちゃん。

超音波検査にて小腸の腫瘤が見つかり、バリウム検査でその腫瘤部分の狭窄を認めたため開腹手術を行いました。


バリウムを飲ませてからのレントゲン



お腹の中の腫瘤



腫瘤が腸を巻き込んでおり、そのため食べたものが通過しなくなり嘔吐していたと考えられました。

腫瘤と巻き込まれた腸を切除し、腸の断端同士を縫合しました。


その他に異常がないかお腹の中を調べてみると、もう一つ腫瘤が見つかりました。

しかし、その腫瘤は尿管を巻き込んでおり切除するには腎臓を一つ失うことになるため飼い主さまと相談の上、腫瘤の一部を採取しこちらの腫瘤は切除せず組織の結果を待つことにしました。

というのも2つの腫瘤が明らかに避妊手術時に卵巣の血管を処理する場所だったので、腫瘍よりも「縫合糸肉芽腫」を疑ったからです。

数日後に届いた組織の検査結果は「肉芽腫」であり、組織の中に絹糸(溶けない糸)が入っていたというものでした。



4年前に他の動物病院で受けた避妊手術で絹糸(溶けない糸)が使用され、異物性の炎症を引き起こし今回のような命にかかわる問題を引き起こしていました。

結果を飼い主さまにお伝えし、残してあるもう一つの腫瘤に関しては、飲み薬で炎症を抑える治療を開始しました。

その後、腫瘤はわからないくらい小さくなり腎臓の機能も問題なく順調に回復してくれました。

しかし、お腹の中に溶けない糸がある限りお薬は長期的に(場合によっては一生)飲んでいただかないといけません。



このワンちゃんの治療をきっかけに、安価な縫合糸や道具で費用を抑えて手術することが本当に飼い主さまや動物達のためになるのか改めて考え直し、もう一度去勢手術・避妊手術のやり方を検討しなおしました。

スタッフとも話し合った結果、このような手術の合併症があることを事前にお伝えし、それをできるだけ予防できる方法があることも説明し、最終的には飼い主さまに手術方法を選択していただくように変更いたしました。


「同じように苦しむ動物たちが少なくなれば・・・」と記事にさせていただくことを許可していただいた飼い主さまに感謝いたします。
また、手術いうものをもう一度考え直すきっかけを頂けたことに感謝いたします。